偽東京カレンダー

東京カレンダーに憧れる、田舎者。

体育会系大手企業サラリーマン。マサキの週末

LINEの通知のバイブで目を覚ます。
時計は11時15分。

 

「またやった。」

 

土曜日の朝はいつもこうだ。

昨日の接待の飲みすぎによる二日酔い。寝ぼけ眼でスマホを見る。

 

LINEの未読は14件。その内の半分は社会人アメフトチームのグループLINEのやりとりだ。内容は「来週の結婚式の余興」について。

 

残り半分は酔って電話をしたオンナたちからの乾いた返事。


「ごめーん。寝てたー」

「おはよ。気づかなかったー」

「そんな時間寝てます笑」


土曜日のお決まりのパターンだ。


酔って電話をするのが癖なのだ。

中には甘い言葉を囁き、恋仲に発展してる事もある。

 

いわゆる酒に飲まれる、女好き、寂しがりやのダメ男だ。

 

28歳にもなると、家庭を持って落ち着く仲間も増える。


Facebookとインスタグラムにはお決まりの友人がお決まりの子供との楽しい時間アピールをしている。

 

マサキに結婚願望はない。だけど、なぜか虚無感に包まれるいつもと変わらない土曜日。

 

モテないかと言われれば、そうではない。
それなりに、言いよってくる女性もいるし、定期的に飲みに行く関係のオンナもいる。
28歳、独身、大手企業、六大学の名門体育会系。響きだけは、心地よい。

 

響きだけは。

 

これがマサキを悩ますポイントなのだ。
響きだけなはずのに、やたらその社会性が気になる。

成功者の振る舞いをしたいだけの薄っぺらい若者なのだ。

 

自分に必要なのは

高学歴で容姿端麗で外資系企業に勤める才色兼備の読者モデルとか、

キー局のアナウンサーとかだと決めつけている。

 

響きを彩る美しい女性が欲しいだけなのだ。

 

そんなマサキも、最近はまっている事がある。


呑んだくれていた社会人なりたてのあの頃とは違い、

土曜日は美味しい料理と、美味しい酒を嗜み、1時には寝る。日曜は朝からジムに行き、読書をし、自分を磨く。


こんな当たり前で健康的でリッチな生活だ。

 

大手企業に入って浮かれてたあの頃は、かなり無茶して遊んでた。

「そんなバカをできる仲間が減っただけ。」と言われればそうなのかもしれない。

 

「おれも最近落ち着いちゃってさ。」なんて言ってみたりしてる。口癖のように。

 

だけど、今日はいつもと様子が違う。

18時30分にはシャワーを浴び、歯を磨き、ワックスで髪の毛を整え、香水をふりかけている。

 

予約は19時30分。麻布十番の和食創作料理だ。遅れて、忙しいアピールはもはや中二病に近いと思える年頃だ。


今日は昔の彼女、ユウコとの食事だ。
大学の時に付き合ってた、元カノだ。

 

少し大人びてるけど、背伸びをしてる感じでも、無理をしてる感じでもない。


それが28歳。

 

自信もそれなりにあるし、財布も決して寒くはない。


今日はどんな夜になるのだろうか。というよりは自分はこのオンナをどうしたいのだろうか。


そんな自問自答を繰り返しながら、

 

「八海山2合、おちょこ2つで」

 

と店員に告げる自分を少し滑稽に思った。

 

続く